広島地方裁判所福山支部 平成2年(ワ)24号 判決 1994年7月19日
主文
一 被告株式会社近代地所は、原告宮口進吾、原告宮口重子に対し各金九六八万八〇八八円及び内金八七八万八〇八八円に対する平成元年三月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告株式会社近代地所は、原告川本忠行、原告寺若節子に対し各金八八六万九九二三円及び内金八〇六万九九二三円に対する平成元年三月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告株式会社近代地所に対するその余の請求及び被告福山瓦斯株式会社に対する請求を棄却する。
四 訴訟費用は、原告らと被告株式会社近代地所との間に生じたものはこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告株式会社近代地所の負担とし、原告らと被告福山瓦斯株式会社との間に生じたものは原告らの負担とする。
五 この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。
理由
一 請求原因1(一)の事実は原告と被告近代地所との間で争いがなく、同1(二)の事実は原告と被告福山瓦斯との間で争いがない。
二 事故の発生及びその原因
1 《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件居室の間取り等は別紙現場見取図のとおりであり、右図面のガス湯沸器と記載された部分の壁面に本件湯沸器が設置されており、右湯沸器からは浴室と流し台に給湯されるよう配管されていた。
右湯沸器はパロマ株式会社製の強制排気式、すなわち、燃焼用の空気を室内から取り、排気ガスを排気用送風機を用いて排気筒から強制的に屋外に排出する方式のガス瞬間湯沸器であり、右湯沸器の上部には排気筒(本件排気筒)が接続しており、右排気筒は壁面に沿つて上に延びて天井裏に入り、天井裏を横に延び、建物の外壁を貫通して屋外に通じており、排気筒の先端部分(外壁を貫通する部分)には防火ダンパー(火災時に炎、煙等が排気筒を通じて居室内に侵入するのを防止するために設ける設備で、防火ダンパーが作動すると排気筒は閉塞される。以下、本件防火ダンパーという。)が設置されていた。
なお、本件湯沸器及び本件排気筒はいずれも被告近代地所が設置したもので、その所有権は同被告にある。
(二) 訴外勝志は平成元年三月五日ころから本件居室を留守にしていたが、同月一七日午後一〇時五〇分ころ右居室に戻り、ドアの鍵がかかつていたので、鍵を開けて室内に入つたところ、室内には湯気が充満し、天井は全室にわたつて水滴が付着し、台所の床面には水が貯留しており、本件湯沸器は点火されたままの状態で、浴室の浴槽に給湯されていた。
そして、訴外誠は別紙現場見取図の「男性」と記載された場所でトレーナーと半袖シャツを着用した姿で、訴外忍は同図の「女性」と記載された場所でパジャマを着用した姿で、それぞれ倒れていた。
(三) 訴外勝志から右事故の通報を受けた所轄消防署(受付時刻は同日二二時五五分)では直ちに救急隊員が現場に出動したが、訴外誠及び訴外忍とともに既に硬直状態であつたので、救急隊員は医師の出動を要請し、右要請を受けて現場に臨んだ医師三宅晴夫は、右両名について、ガスの不完全燃焼による一酸化炭素中毒死、死亡時刻平成元年三月一七日午後〇時頃と検索した。
(四) 事故後の調査の結果、本件事故当時、本件防火ダンパーが作動して本件排気筒が閉塞していたことが確認された。
(五) 被告福山瓦斯は本件事故について、台所に設置されていた大型湯沸器(本件湯沸器のこと)の排気筒の外壁貫通部に取り付けられていた防火ダンパー(本件防火ダンパー)が閉止していたため排気が阻害され、不完全燃焼し、排気ガスが隠蔽部の排気筒接合部からあふれ居室に流入し、居室に居た訴外誠と訴外忍が一酸化炭素中毒死したと推定されるとの報告書を広島通産局に提出している。
2 右の事実によれば、訴外誠及び訴外忍のいずれかが本件湯沸器に点火して浴槽に給湯していたが、本件排気筒の先端部分(外壁を貫通する部分)に設置されていた本件防火ダンパーが作動して本件排気筒が閉塞していたため排気が適切に行われず、その結果、本件湯沸器が不完全燃焼を起こして一酸化炭素が発生し、室内に居た右両名はこれを吸引して平成元年三月一七日午後〇時ころ一酸化炭素中毒死したものと認められる。
三 被告近代地所の責任
1 工作物責任について
(一) 前記認定事実によれば、本件排気筒は土地工作物である建物に接着して設置されており、本件湯沸器及びこれに付随する本件排気筒があることによつて居住用建物としての本件居室の効用も全うされるものであり、また、排気筒は有害な排気ガスが通じることにより潜在的な危険を内包しているものであるから、本件排気筒は建物と一体をなすものとして民法七一七条の土地工作物に該当するものというべきである。
そして、前記認定のとおり、本件湯沸器の使用によつて発生する排気ガスを屋外に排出するための設備である本件排気筒に設置された本件防火ダンパーが作動して本件排気筒が閉塞し、排気が適切に行われない状態にあつたのであるから、その保存に瑕疵があつたものというべきである。
(二) 被告近代地所は、訴外誠及び訴外忍は本件居室の賃借人である訴外勝志の許可を得て本件居室をしばしば利用していたのであるから土地工作物の占有者であつて民法七一七条一項にいう「他人」ではない旨主張するところ、前記認定のとおり、訴外勝志は本件居室を賃借して居住していたのであるから、本件居室の居住空間については訴外勝志が占有していたものというべきである。
しかし、本件居室、本件湯沸器、本件排気筒はいずれも被告近代地所の所有であることは前記認定のとおりであり、また、《証拠略》によれば、本件排気筒のうち天井裏部分から外壁貫通部分にかけての部分は外からは見えず、本件居室の天井には点検口も設置されていないため、右部分の排気筒を点検したり、取り替えるには本件居室の天井を一部壊さなければならないことが認められる。
右の事実及び前記一認定事実によれば、本件排気筒はその大部分が本件居室の天井裏にあり、しかも、本件防火ダンパーは排気筒の先端の外壁との貫通部分に設置されているのであり、本件居室の賃借人である訴外勝志においてその状態を把握することは不可能であり、本件排気筒のうち本件居室の天井裏から外壁を貫通する部分にかけての部分を事実上支配し、その瑕疵を修補し得る立場にあるのは本件居室及び本件排気筒の所有者であり、右居室の賃貸人でもある被告近代地所と認められる。
したがつて、民法七一七条一項の土地工作物である本件排気筒の占有者は被告近代地所というべきである。
(三) よつて、被告近代地所は本件事故について民法七一七条一項に基づき、本件事故について損害賠償責任を負う。
なお、被告近代地所は、本件事故について必要な注意を尽くしたと主張するが、前記のとおり同被告は土地工作物である本件排気筒の所有者でもあるから、右注意を尽くしていたとしても民法七一七条一項但書により損害賠償責任を免れない。
四 被告福山瓦斯の責任
1 ガス事業法及びその関連法規に照らすと、被告福山瓦斯は、一般ガス事業者としてガスに関する高度の専門的知識技術があることを前提に、ガスにより発生する被害を防止するための高度の注意義務を負つているものと認められる。
2 そこで、原告らの主張に則して、被告福山瓦斯が右義務を尽くしていたか否かについて検討するに、中央ショップが被告福山瓦斯から業務委託を受けてガス需要家の保安サービス、点検、ガスの開栓等の業務をしていたことは原告らと被告福山瓦斯との間で争いがないところ、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
(一) 黒瀬照子は昭和六一年四月から昭和六二年八月まで本件居室を賃借して居住していたが、居室内に設置されていたガス湯沸器を使用するとガス臭を感じたので、中央ショップに点検を依頼し、中央ショップの従業員が右点検をしたところ、湯沸器の内部がさびていた。
右指摘を受けた被告近代地所は右湯沸器を取替えることとし、昭和六一年四月、同被告から発注を受けた中央ショップが本件湯沸器を取り付けた。
その際、右黒瀬はガス漏警報機を本件湯沸器の脇に設置した。
(二) 訴外勝志が本件居室に入居するに際し、昭和六三年一二月三日、中央ショップの従業員の福島尚亮が本件居室の都市ガスの開栓作業を行つた。
その際、福島は点検事項が記載された所定の用紙に基づいて開栓時の点検作業をしたが、本件湯沸器の排気筒については天井裏部分以外の目視し得る部分について点検項目(材質、堅固に取付けられているか否か、耐食性の有無等)を点検し、スモークテスト、すなわち、煙草、線香の煙等を右湯沸器の排気フードに近づけて煙が溢れるか否かをみて排気がされているか否かを検査するテストもしたが、異常は認められなかつた。
福島はさらに換気についての注意が記載されたステッカーを本件湯沸器に張り、換気その他ガス保安上の注意事項を記載したパンフレットを訴外勝志に交付した。
(三) 同年一二月一四日、訴外勝志から中央ショップに対してガスコンロの燃焼不良との訴えがあつたので、中央ショップの従業員の吉田惣司が、同日及び翌一五日、点検のために本件居室に赴いたが、留守のため点検できず、同月一七日に点検したところ、右ガスコンロがLPガス用であることが燃焼不良の原因と判明したので、吉田はこれを都市ガス用に改造するために持ち帰り、同月二二日、改造済みのガスコンロを持参した。
その際、吉田は居合わせた原告宮口重子(訴外勝志の母)から本件湯沸器の調子を見て欲しい旨依頼されたので、排気がされているか否かを調べるためにスモークテストをしたが、異常は認められなかつた。
(四) 被告福山瓦斯は、そのガス供給規定において、法令の定めるところにより供給施設について保安の責任を負う旨規定しており(なお、右規定では、供給施設とは、導管、整圧器、ガスメーター、及びガス栓をいうと定義されている。)、また、法令の定めるところにより消費機器(ガスを消費する場合に用いられる機械または器具)について使用者の承諾を得て法令で定める技術上の基準に適合しているかどうかにつき調査し、その調査の結果、これらの機器が法令で定める技術上の基準に適合していない場合にはその使用者に所要の措置及びその措置をとらなかつたときに生ずる結果を通知する旨規定している。
(五) また、被告福山瓦斯は、ガス事業法四〇条の二に基づき同被告が供給するガスの使用先における消費機器の調査に必要な事項を定めた「ガス消費機器調査規定」を定めており、これによれば、ガス湯沸器であつてガスの消費量が一万キロカロリー毎時を超えるもの(本件湯沸器はこれに該当する。)については、次のような調査の基準及び点検事項が規定されている。
(1) 排気筒が設けられていることを目視により確認する。
(2) 自然排気の排気筒(自然排気式の機器の排気筒であつて換気扇が接続されていないものをいう。)については
<1> 排気筒の材料は金属、石綿その他の不燃性のものであることを目視により確認する。
<2> 排気筒の先端は屋外に出ているか否かを点検し、目視により、排気筒がはずれていないこと、排気筒に腐食等による穴があいていないことを点検する。
排気筒が天井裏に入つており経路が不明でないか否かを点検し、排気経路不明の自然排気方式、単独機械排気方式、フード接続については、スモークテストを行い、溢れがないことを確認する。
(3) 強制排気の排気筒(本件排気筒はこれに該当する。)については(2)に準ずる。
以上のとおり認められる。
証人宮口勝志は、昭和六三年一二月一七日に中央ショップの従業員が本件居室にガスコンロの点検に来た際、右従業員に対し、本件湯沸器を使用していると右湯沸器の火が点いたり消えたりするとか、ガス漏警報機が鳴る旨説明したが、何もしてくれず、同月二二日に右従業員が再度来た際、右従業員は本件湯沸器を点検したが、その際にガス漏警報機が鳴つたにもかかわらず使い始めにはよくあることと述べるのみで何の処理もしなかつた旨証言するが、これらの点についての被告福山瓦斯の代理人の質問に対する同証人の証言はあいまいであり、また、原告宮口重子は、訴外勝志から本件湯沸器の火が消えるとか、ガス臭がするとかの苦情を聞いていたので、中央ショップの従業員がガスコンロの点検に来た際にその旨説明して本件湯沸器の点検を求めたが、右従業員は「古いからしやーない。」と述べたのみであると供述するが、同原告の供述も明確でなく、証人宮口勝志、原告宮口重子の右供述のみでは、同人らが具体的に不良箇所、危険箇所を指摘して被告福山瓦斯ないしは中央ショップに対して本件居室のガス器具の点検修理を依頼したとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
3 右の事実によれば、被告福山瓦斯から業務委託を受けた中央ショップの従業員は、訴外勝志の本件居室への入居の際及び訴外勝志からガスコンロの燃焼不良を訴えて修理依頼を受けた際に本件湯沸器及び排気装置を所定の点検要領にしたがつて点検していることが認められ、昭和六一年四月に本件居室に本件湯沸器を設置した際にも同様に所定の点検をしたものと推認できる。
そして、ガス供給施設以外のガス消費機器、換気装置等については使用者が第一次的に保安の責任を負い、被告福山瓦斯の責任は二次的、間接的なものと解されることを考慮すると、被告福山瓦斯ないしは中央ショップにおいて、入居者である訴外勝志その他から本件居室で使用しているガス消費機器等について、ガスコンロの燃焼不良を指摘されたほかは(この点については、右ガスコンロがLPガス用であることを右燃焼不良の原因であり、都市ガス用に改造されたことは前記認定のとおりである。)具体的な不良箇所、危険箇所を指摘されて点検、修理等を依頼されたと認められない本件においては、被告福山瓦斯の履行補助者というべき中央ショップの従業員は前記認定のとおり所定の点検要領にしたがつて点検をしたことをもつてその義務を尽くしたものというべきである。
もつとも、《証拠略》によれば、昭和六三年四月に神奈川県及び鹿児島市においてガス給湯器の使用中に給湯器の排気筒に設けられていた防火ダンパーが作動して不完全燃焼を起こし、天井裏を通つていた排気筒に充満した一酸化炭素が室内に漏気したとみられる死亡事故が発生したことから、建設省住宅局建築指導課長から特定行政庁建築主務部長にあてて、昭和六三年六月二七日付で、事故の再発を防止するため、既存の建築物において燃焼機器等に直結する排気筒に防火ダンパーが設置されている場合については早急に当該ダンパーを取り外すよう設計者、工事監理者、施行者等に関係団体を通じ指導するようにとの指示がされ、これをふまえて、広島通商産業局公益事業部長は同年七月一八日付で被告福山瓦斯にあてて、建設省住宅局建築指導課長からの右指示内容を教示し、被告福山瓦斯においても同様の事故の再発防止のためガス消費機器の排気筒に防火ダンパーが設置されていることが判明した場合には設計者、工事監理者、施行者等に連絡すること及びガス工事の申込時等の機会を活用し、設計者、工事監理者、施行者等にガス消費機器の排気筒に防火ダンパーを設置しないよう要請し、防火ダンパーが設置されていることが判明した場合にはその旨を当該ガス消費機器の消費者にも周知するようにとの指示をしていることが認められるが、前記のとおり、中央ショップの従業員は訴外勝志その他から本件居室のガス消費機器等について、ガスコンロの燃焼不良を除いては具体的な不良箇所、危険箇所の指摘を受けていないのであり、他に特段の事情の認められない本件において、訴外勝志の本件居室入居の際のガス開栓時または訴外勝志から依頼されてガスコンロの点検、修理をした際、中央ショップの従業員において本件排気筒に防火ダンパーが設置されている可能性を予測してその有無を調査すべき注意義務があつたとまではいえない。
右のとおり、被告福山瓦斯から業務委託を受けていた中央ショップの従業員には本件事故について責に帰すべき事由があつたとはいえないから、被告福山瓦斯は本件事故について使用者責任、債務不履行責任ともに負わない。
五 過失相殺
《証拠略》によれば、訴外誠は訴外勝志の兄であり、平成元年一月末ころから、当時交際していた訴外忍とともにほとんど毎日のように訴外勝志の承諾のもとに本件居室で泊まつていたが、訴外勝志から、本件湯沸器の調子が悪く、使用中に火が消えたり、室内に設置されているガス漏警報機が鳴るとの説明を受けていたこと、右のように本件ガス湯沸器の調子が悪かつたことから、訴外勝志は右湯沸器を使用する際には本件居室の窓を開けたり換気扇を回す等して室内の換気に注意していたこと、ところが、訴外誠は右湯沸器の不調の原因を調査することもなく、同年二月中頃、右ガス漏警報機の配線を切断してしまつたことが認められ、右事実及び前記認定の本件事故の態様に照らすと、訴外誠は訴外勝志から本件湯沸器の調子が悪く、本件湯沸器を使用する際には換気に注意しなければならない旨説明を受けていたにもかかわらず、室内のガス漏警報機の配線を切断し、本件事故当時は換気に注意することなく本件湯沸器を使用して浴槽に給湯し、または、訴外忍が換気に注意することなく本件湯沸器を使用して浴槽に給湯するのを放置していたものと認められるから、本件事故については訴外誠にも相当程度の過失があり、損害額の六割を過失相殺するのが相当である。
そして、右認定によれば、訴外忍はたまたま本件居室を訪れていたところ不運にも本件事故に遇つたというのではなく、本件事故当時はほとんど毎日のように訴外誠と本件居室で泊まつていたのであり、本件湯沸器を使用する場合の注意事項については訴外誠と同程度の知識があつたものと推認され、訴外誠と訴外忍の関係も考慮すると、本件事故当時本件湯沸器を使用して浴槽に給湯していたのが訴外誠であつたか訴外忍であつたかにかかわらず、訴外忍についても訴外誠について述べたと同様、本件湯沸器使用に際して換気に注意しなかつた過失があつたものというべきであり、訴外誠の場合と同様に損害額の六割を過失相殺するのが相当である。
六 損害
1 原告宮口進吾及び原告宮口重子関係
(一) 訴外誠の逸失利益
《証拠略》によれば、訴外誠は本件事故当時二一才で、中学卒業後就職し、事故当時は喫茶店の店員として働き、少なくとも原告ら主張額(月額金二〇万円)の収入を得ていたことが認められる。
そこで、右収入額を基礎とし、就労可能期間を六七才までの四六年、生活費として収入の五割を控除し、ホフマン式計算法により同人の逸失利益の事故時の現価を算定すると、次の算式のとおり金二八二四万〇四四〇円となる。
二〇万円×一二×〇・五×二三・五三三七=金二八二四万〇四四〇円
(二) 訴外誠の慰謝料
金一五〇〇万円が相当である。
(三) 訴外誠の葬儀費
《証拠略》によれば、原告宮口重子及び原告宮口進吾は訴外誠の葬儀を執り行つたことが認められ、葬儀費は金七〇万円が相当である。
(四) 訴外誠の損害についての小括
訴外誠の損害は合計金四三九四万〇四四〇円となるが、前記説示にしたがい、その六割を過失相殺すると残額は金一七五七万六一七六円となる。
(五) 相続
記録に編綴された原告宮口進吾を筆頭者とする戸籍謄本によれば、原告宮口進吾及び原告宮口重子は訴外誠の父母であり、訴外誠の死亡によりその権利義務を法定相続分にしたがい各二分の一あて相続したものと認められるから、訴外誠の前記損害を各金八七八万八〇八八円相続した。
(六) 弁護士費用
原告宮口進吾及び原告宮口重子につき各金九〇万円が相当である。
2 原告川本忠行及び原告寺若節子関係
(一) 訴外忍の逸失利益
《証拠略》によれば、訴外忍は本件事故当時一八才で、中学卒業後就職し、事故当時は喫茶店の店員として働いていたことが認められる。
《証拠略》によれば、訴外忍は月額一七万五〇〇〇円の給料を得ていたことがあることが認められるが、同人が継続的に安定して右額の給料を得ていたことを裏付ける的確な証拠はなく、同人の逸失利益の基礎となる収入としては、賃金センサス平成元年第一巻第一表、産業計、企業規模計、小学、新中学卒女子労働者(年令一八から一九才)の年間収入金一六八万二六〇〇円によるのが相当である。
そこで、右金額を基礎とし、就労可能期間を六七才までの四九年、生活費として収入の四割を控除し、ホフマン式計算法により同人の逸失利益の事故時の現価を算定すると、次の算式のとおり金二四六四万九六一八円となる。
金一六八万二六〇〇円×〇・六×二四・四一六二=金二四六四万九六一八円
(二) 訴外忍の慰謝料
金一五〇〇万円が相当である。
(三) 訴外忍の葬儀費
弁論の全趣旨によれば、原告川本忠行及び原告寺若節子は訴外忍の葬儀を執り行つたことが認められ、葬儀費は金七〇万円が相当である。
(四) 訴外忍の損害についての小括
訴外忍の損害は合計金四〇三四万九六一八円となるが、前記説示にしたがい、その六割を過失相殺すると残額は金一六一三万九八四七円となる。
(五) 相続
記録に編綴された寺若忠行、川本忠行を筆頭者とする各戸籍謄本によれば、原告川本忠行及び原告寺若節子は訴外忍の父母であり、訴外忍の死亡によりその権利義務を法定相続分にしたがい各二分の一あて相続したものと認められるから、訴外忍の前記損害を各金八〇六万九九二三円相続した。
(六) 弁護士費用
原告川本忠行及び原告寺若節子につき各金八〇万円が相当である。
七 結論
以上によれば、原告らの請求は、被告近代地所に対し、原告宮口進吾、原告宮口重子が各損害金九六八万八〇八八円及びそのうち弁護士費用を除いた金八七八万八〇八八円に対する事故の日である平成元年三月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、原告川本忠行、原告寺若節子が各損害金八八六万九九二三円及びそのうち弁護士費用を除いた金八〇六万九九二三円に対する前同様平成元年三月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告らの被告近代地所に対するその余の請求及び被告福山瓦斯に対する請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 辻川 昭)